日本人学校オンライン教員研修
~コロナ禍前の環境整備・試行錯誤、そして合同研修の充実へ(マニラ、大連、青島の日本人学校)~

コロナ禍以前、一部の企業等ではオンライン会議が日常的でしたが、一般的ではなく、教育現場ではほとんど行われていませんでした。
二年前のそのような中、二〇一九年度からAG5「日本人学校におけるバイリンガル・バイカルチュラル人材育成のための日本語力向上プログラムの開発」において、オンライン教員研修にも取り組み始めたのが、マニラ、大連、青島の日本人学校です。
コロナ禍前のオンライン会議・研修で築いた基盤
各校のAG5担当教師とAG5運営指導委員がスカイプやWe hat等を使ってプロジェクトの打ち合わせをしたのが、オンライン研修の始まりです。現地を訪問して対面での教員研修を実施する前に、各校の状況を把握し、実態に合わせた研修を企画・準備することができました。
それぞれの国の事情により、使える通信アプリは様々でしたが、メールや電話では伝わりにくいことも、リアルタイムで顔を合わせて話すことにより、とてもスムーズに適切に進めることができました。
Zoom を使い始めたのは、十一月からでした。翌年二月にマニラ日本人学校で開催される日本人学校合同研究会に向けて、オンライン参加者も想定しての取り組みでした。しかし日本人学校でのZoom 導入には、通信環境整備も含め課題が山積していました。Wifi 機器、高性能カメラ・マイク等の機材を整えることから、オンライン授業公開・全体会に向けて何度もシミュレーションを重ね、二月末、初めての日本人学校合同研究会の開催まで漕ぎ着けました。
合同研究会当日は、中国でのZoom使用が不可となり、大連と青島の日本人学校の発表はWEBサイトで提示するのみと変更しました。台北・台中日本人学校、浜松市教育委員会とZoom での情報交換会の後、マニラ日本人学校の授業公開(一・二・三年日本語学級、五年在籍学級)は、各教室からZoom で配信し、他校の参加者は公開授業をリアルタイムで参観することができました。全体会もオンラインで、文部科学省国際課長をはじめ、他校の参加者とマニラの教職員が学び合うことができました。
この頃、世界はコロナ禍に突入。日本人学校の教育活動も巻き込まれていきましたが、日本人学校合同研究会に向けたIT環境整備や研修の実績が、この後、功を奏することになります。
試行錯誤をチャンスに変えたオンライン教員研修
二〇年度の教員派遣や対面での学校再開の目め処どが立たない中、マニラ、大連、青島の日本人学校の先生方は、前年度に整えたIT環境やノウハウを生かして、オンライン授業、ハイブリッド授業(オンラインと対面)を始めました。何もかも初めてのことでしたが、三校の先生方は、「A
G5でIT環境を整備し始めた頃はとても苦労したけれど、そのおかげですぐにオンライン授業に取り組むことができて感謝しています」とおっしゃってくださり、他の日本人学校に先駆けて様々な取り組みを始められました。
同時に、どの先生方も何が正解で何をどうしたら効果的なのか手探り状態にあることへの不安を抱えていました。さらに良い方法はないかと情報も強く求めていました。そこで、二一年六〜八月の三カ月間に集中して、表1に示すオンライン教員研修を三校の教員に向けて実施しました。
六月の情報交換会で各校の現状や課題が明らかになったため、その課題解決のために、七月にはマニラと青島の日本人学校の先生方が自主的に研修を企画・公開しました。Zoomによるアクティブラーニングやハイブリッド型の授業は、当時本当に先駆けで、新しい取り組みに目を見張るものがありました。八月には、国内待機中の派遣教員がすぐに各校の取り組みに参加できるよう、日本語力向上プログラム開発に関する研修を企画・実施しました。どれも必要に迫られての教員研修でしたので、先生方の意識も高かったように思います。
また、赴任できずに国内待機を強いられていた派遣教員向けオンライン教員研修には、二十二名の教員だけでなく文部科学省国際課企画官も参加され、盛況でした。この頃のオンライン教員研修として、どのような学びがあったのか、参加者のアンケートから一部抜粋して紹介します。
○コロナ禍にあってもオンライン対応をされ、学びを止めない姿勢が素晴らしいと思った。○画面上だが、挑戦や達成を経験した先生方のお顔を拝見でき、希望が持てた。○AG5の目的や我々の立場を確認できた。○それぞれの特色を生かし丁寧な取り組みをされていて参考になった。○生活言語に支障はなくても、学習言語能力に課題があることを初めて知った。○紹介された実践は、在籍学級の子供にとってもわかりやすいものになると思う。○このような研修の機会を与えていただき感謝している。すぐに実践してみたい。○派遣前の国の研修でもAG5の取り組みについて取り入れる必要があると思う。
三カ月間という短期間でしたが、必要な時に必要なことを集中して研修できたのも、オンライン教員研修ならではの効果ではないでしょうか。
先生方が不安を払拭し新たな教育活動への展望をもち、日本人学校の教員としての使命を確固たるものにしていく姿がここに見られます。
深まり広がるオンライン教員研修

